遺産分割協議書に添付する市区町村の印鑑証明書に代わる手段は?その1

先ごろ私が後見人となっている方の遺産分割協議証明書を提出する機会があった。

申請代理人は他の司法書士の先生である。

私たち司法書士は最近後見人として選任を受ける場合その住所を自宅ではなく事務所で選任していただく方が多くなっていると思う。後見人としてある行為をする場合に様々な機関や人に対し、逐一自宅の住所を明らかにはしたくないからであるが、これが登記申請行為で印鑑証明書の添付を要求される局面で若干面倒なことが生じる。

 

後見人としての登記事項証明書は事務所の住所、印鑑証明書は自宅の住所、その同一性を証明するために、日本司法書士連合会(日司連)の登録事項証明書等を一緒に添付しなければならない。

 

今回の相続の登記において分割に応じた立場となる私は、当然遺産分割協議書に印鑑証明書を添付しなければならないが、上記のように個人の印鑑証明書を添付するとそもそも出したくない個人情報を出すことになり、何とかならないかと考えてみた。

 

そこで分割協議書に添付する印鑑証明書は新不動産登記法での根拠は何かということをいまさらながら調べてみると、今でも昭和30年の先例に基づくものであるということがわかった。
確かに、分割協議書の印鑑証明書は今でも原本還付が可能で、原則印鑑証明書の還付不能を定める(条文構成は添付書類「原則還付可能」  ただし書きで還付できない場合を定める。)規則55条で分割協議書の印鑑証明書は還付できない書類にはあたらないものとされている。還付できないものにあたるのは登記令16条第2項、第18条第2項(登記義務者の印鑑証明書)、第19条第2項(第三者の同意又は承諾権者の印鑑証明書)などであるが遺産分割協議書に添付を要求される印鑑証明書はこれらの書面にあたらず、結局遺産分割協議書は、登記令7条1項5号ロ(登記原因証明情報の一部)の書面であり、先の先例に基づき添付が要求されるというのが結論である。

 

だとすると分割協議書に印鑑証明書を添付する趣旨は、添付する遺産分割協議書が公的な書類と同程度に信ぴょう性を持ちえれば、何も市区町村長の印鑑証明書でなくてもよいことになるのではないかと思い、いくつかの選択肢を挙げてみた。

 

後見人が遺産分割協議書に押印した印鑑につき市区町村発行に係る印鑑証明書添付に代わる手段として

  1. 家庭裁判所で発行していただく後見人の印鑑証明書
  2. 所属司法書士会で発行する職印証明書
  3. 規則50条の趣旨から遺産分割協議書を公証人の前で署名し、公証人の認証を受けた書面を添付すること

が考えられる。どの方法も自宅住所の情報を必ずしも相手方に送付する必要はない。

 

 

  1. については法令を根拠として発行したものではない。しかし裁判所書記官の公印による証明がなされる。
  2. 証明者は所属司法書士会であり公的な機関ではない。しかし本人確認情報を添付する場合準則49条第2項(3)で所属司法書士会の職印証明書を要求され、資格者代理人であることの信ぴょう性は十分に担保されている。
  3. 規則50条はそもそも本来印鑑証明書の還付ができない第三者の許可承諾の際に印鑑証明書添付に代わる手段として定められているので、事の順序として問題はないものと考えられ、証明者は公証人である。ただし①②に比べ若干費用がかかる。

 

 

私の個人的見解では、先の先例の趣旨に鑑みいずれであっても分割協議書の書面の信ぴょう性は担保されるので登記申請は受理できるものと考えるが、さて実務はどうであろうか?

 

今回の事案では急を要したこともあり③で先方の司法書士の先生に申請をお願いした。

つづく